未来のかけらを探して

2章・世界のどこかにきっといる
―16話・行先確認ミス―



スペッキオ・ポルタを通り、鏡面に移っていた場所にたどり着いたプーレたち。
「あれ?デジョンズより早くつくんだね、」
きょろきょろとプーレが周りを見回す。
デジョンズのように空間の裂け目に入るのかと思ったが、
本当にただすり抜けただけのようにあっさりとこちらにたどり着いた。
あっさりしすぎて、ワープした気がしない位だ。
「う〜ん、なんか変なところだねぇ〜……。」
「あ゛ー!ボクのかみの毛ムラサキー!」
パササが何気なく自分の髪のはじを見た瞬間、ものすごい奇声を発した。
半分裏返ったような声に驚いてプーレとエルンが彼を見ると、
彼の髪がいつもの淡いオレンジから薄い紫にすっかり変化していた。
服が本来の髪と同系色である濃いオレンジや赤なので、
髪だけ色が浮いてみっともない。
「うわぁ……どうしたの?」
「ウェェ〜。ナンカ、ボクの仲間と親せきの特徴らしいヨ〜……。」
げんなりした様子でパササが言った。
どうやらパササ自身、今の自分の髪の色はとても嫌なようだ。
「なんでそうなるんだっけ?忘れちゃったぁ……。」
“クリーニオンとその子孫……つまりパサラもだが、
彼らの毛は周りの属性の影響で色が変わるという特徴がある。
そのせいでこんなことになる。今は紫だから、この辺りは闇属性ということだな。”
ど忘れしたらしく首をかしげるエルンに、ルビーがすかさず教えてやった。
思い出せたエルンはもちろん、
知らなかったプーレは感心したようにうなずく。
「へぇ、そうなんだ……。」
体に悪くないのかなとプーレは思ったが、
パササはいやそうにしているだけで、
別に顔色が悪いとか毛艶が悪いといった様子はない。
髪の色が変わったといっても、体調に変化はないようだ。
「ねぇパササ、色が変わるとなにかある?」
「えー?まわりの属性がわかるだけだヨ。いいことも悪いことも別にないモン。」
だから紫になるのはやだーと、パササがくだを巻き始めた。
たとえ体に悪いことは何もなくても、勝手に色が変わるのは相当嫌なようだ。
“ほらほらいじけない。とりあえずどっかに行かないと……あ。”
『モンスター?』
いつの間にか背後を巨体でふさぐ、牛に似たモンスター。
その口から垂れているのは、どこからどう見てもよだれだ。
プーレ達はそれを見た瞬間に全てを悟り、誰が言い出すまでもなくそろって猛ダッシュ。
「うっひゃぁぁぁぁ〜〜〜〜?!!」
「なんでいきなりいるのーーーー?!」
転がるような勢いで、必死に走って逃げるプーレたち。
いきなりとはあんまりだと言いたくなるが、
そんなことを言う精神的余裕はゼロだ。
逃げなければ殺されるか食べられて、どちらにしろ生きていられない。
「ブモォォォォ!!」
「うわー、つっこんでくるヨ〜〜!!」
パササの悲鳴も思わず声が裏返る。
実はあちらの足は大して速くないのだが、
得体の知れないものに追い回されている事実のせいでそれどころではない。
「パササ、こ、古魔法でやっちゃってよ!!」
「ムチャいうなー!ムリに決まってるジャン!!」
古魔法だからとかそういう問題以前に、
走りながら精神集中することは不可能に近い。
だからといってのんきに立ち止まって唱えようものなら、
その間に踏まれるか食われるのがオチだ。
「わーん、食べられちゃうよぉ〜〜!
こらぁ、六宝珠ぅ〜〜!!」
どうにかしてくれ〜っとつなげなくても、さすがに六宝珠も状況がわかっていた。
いつもみたいに傍観してるわけには行きそうもない。
“仕方ない……まあ、やるだけやってみるか。
エメラルド、行くぞ。”
“オッケー。”
袋の中でルビーの赤い光とエメラルドの緑の光が同時にきらめく。
いかにもやむをえずといった態度とは裏腹に、
次の瞬間にモンスターの前に現れたのは大きな炎の竜巻。
炎の竜巻はプーレたちが来たほうに瞬く間に迫り、
牛のモンスターを飲み込もうと襲い掛かった。
これにはたまらず、モンスターは脱兎のごとく逃げだした。
いつもはお目にかかれない派手な魔法に、プーレ達はそれを半ば呆然と見つめる。
「めずらしいねー、まじめだぁ〜。」
“おいおい、それじゃあおれ達がいつも不真面目みたいじゃないか。”
半分笑いながらエメラルドが抗議した。
が、パササは半眼になってこう切り替えす。
「ふまじめジャン。」
“そんな〜。”
きっぱりと言い切られて、
エメラルドはわざとらしくショックを受けて見せた。
しかし、パササのいうとおりなのでプーレもエルンもかばわない。
悔しかったら普段から真面目にやれというわけである。
「とりあえず助かったけど……なんなんだろ、さっきのモンスター。
図鑑にも載ってないし、ここもよくわかんないよ。」
「あぶなかったよねぇ〜。」
姿がわかるモンスターの情報があっという間にわかる怪獣図鑑にも、
さっきの魔物のことは載っていない。
この怪獣図鑑には地界に居る魔物なら、
ゴブリンからベヒーモスまで載っているのに、何故か載っていないのだ。
「なんで図鑑に載ってないのカナ?」
“たぶん、地界のモンスターじゃないのよ。
それはあくまで地界に住んでいるモンスターしか載っていないから、
他の世界にしか住んでいないモンスターのデータはないと思うわ。”
「それってもしかして……。」
プーレはいやな予感がした。
図鑑に載っていない魔物が居るということは、
地界、つまり元居た世界ではないということではないのだろうか。
“そう、多分ここは地界じゃないだろう……。”
『え〜〜?!!』
まさにプーレの予感どおりの事態と知って、パササとエルンがそろって絶叫した。
あまりの声の大きさに、周りのモンスターもうるさくて逃げてしまいそうだ。
「2人とも、声が大きいよ……。」
危うく聴覚をやられそうになって、プーレは情けない声で抗議した。
しかし、2人は全然納得がいかない様子でまた口を開く。
「え〜、だってここ元の世界じゃないんだよぉ〜?!」
「ビックリするヨ〜!」
それ以上つっこむ気もうせて、プーレはこっそり肩を落とした。
大声は勘弁して欲しいが、彼も気持ちは2人と同じなのだ。
ここが元の世界・地界じゃないと知って、びっくりもしたし大ショックである。
しかし賢いプーレは、さらにその先の疑問も浮かんできた。
「じゃあさ……ここはなんていう世界なのかな?」
地界じゃないのならば、きっと次元の狭間で見た他の世界だろう。
場所がわかっただけでどうにかなるとは限らないが、
わからないままというのは困る。
“この瘴気の具合からすると……魔界か悪魔界ってところだな。
瘴気は薄いから、この辺りは多分はずれの方だろう。”
ルビーは冷静にそういった。
どうやら今いる世界の正体は瘴気の具合でわかるものらしい。
「魔界?悪魔界?」
「そんなの聞いたことしかないよぉ。」
動物や魔物にも昔話やおとぎ話があるが、
それらの世界の住人である魔族や悪魔が話の中に出てくるくらいで、
彼らが住む世界自体にはなじみがない。
しかも魔界と悪魔界は環境や生き物がよく似ているので、
人間に限らずなじみの薄い種族は混同しやすい世界である。
“もしまたモンスターが出てきたら、試しに魔法を使ってみましょう。
それでどちらかわかるから。”
「ナンデ?」
パササが即座に聞き返す。魔法を使うと何かあるのだろうか。
単に、いつものように焦げたり凍ったりするだけのような気がするのだが。
“魔族は魔力がすごく高いし、
ちょっとやそっとの魔法を喰らってもへっちゃらだからな。
悪魔はそんなことはないから、魔法を使えばわかるんだ。”
「へ〜……。」
そんなに簡単に見分けられるとは意外である。
見た目ではわからなくても、ということか。
少しだけ役に立ちそうな豆知識である。
「ふ〜ん、じゃあおまえらがやれバ?」
“かまわない。我々がやれば、魔法の本もお前の少ないMPも無駄にならないからな。”
「少なくてわるかったナ〜!!」
ハイコストな古魔法を使える割に、確かにパササはMPが少ない。
どうやらそれは本人も気にしているらしく、
怒った勢いで袋からルビーを取り出してぶんぶん振り回す。
“うわ、や、やめろ!!……うわ!”
「トリャ〜!!」
ルビーの制止はまったく聞き入れず、
程よく遠心力がかかったルビーはそのままあらぬ方向に吹っ飛んだ。
ルビーが勢いよくやぶに突っ込み、金とプラチナの凝った作りのチェーンだけがはみ出ている。
価値がわかる人が一部始終を見ていたら、恐らくそれだけで死ねるような光景だ。
“ルビー、平気か?聞くまでもないだろうけど。”
“……。”
エメラルドが問いかけたが、むすっとしたようにルビーは答えなかった。
彼らは常に自分の身を守る小さくて強靭な結界を張っているので、
トンカチで割られようが火に放り込まれようが傷一つつかない。
だが、そうはいってもやはりこんな目にあいたいとは思わないようである。
「パササぁ、投げるんだったらふつうに投げようよぉ〜……。」
茂みからさっさとルビーを回収したエルンが、
ちょっと困ったようなあきれたような声でパササをたしなめた。
茂みに入ると、チェーンに枝が絡んだりしてとりにくいのだ。
「ゴメンゴメン。」
パササがアハハと笑ってごまかす。
ちょっとせこいが、壊れたわけでも傷がついたわけでもないのだ。
プーレは困ったように笑っただけで、別に責めはしない。
「も〜……とにかく、先に行こうよ。」
「オッケ〜☆」
ここで漫才をやっていても仕方がない。
ここが魔界にしろ悪魔界にしろ、
また元の世界に戻る方法を探さなければいけないのだから。
「ねぇねぇ、またデジョンズやればあの鏡のところにいけるかなぁ?」
“それはやめなさい……。”
サファイアが間髪入れずに制止した。
あのいい加減なデジョンズでは、またとんでもない所に飛ばされるのがオチだ。
「でもさー、どこに行けばいいのカナ?」
“こういう時は、闇の力が強い方に行くんだよ。
そうすれば話が出来る高位種族が居るし、この世界を治める神も居る。
お前らは人間じゃないし、俺たちも居るからとって食われやしないって。“
エメラルドが言う高位種族は、この場合上級魔族か悪魔だろう。
確かに彼らは人よりも知能が高いが、安全かというとそれは微妙である。
「ふーん……。」
どちらにしてもあまり安全そうではない気もするが、
神が居れば確かにここに居るよりはどうにかなりそうだ。
「神様の力をかりたら帰れるカナ?」
「そうかもね。じゃ、いこっか。
あ、闇の力が強いかどうかってどうすればわかるの?」
“パササの髪の色が、きれいな紫になっていくかどうかでわかるわ。
弱ければ色は今のままで変わらないし、強ければどんどん色が濃くなるから。“
「へ〜、べんりだねぇパササ。」
「ボクアイテムじゃないヨ〜!」
パササの機嫌が思い切り斜めになる。
ただでさえ髪の毛が変な色に変わって機嫌が悪いのに、余計に悪くなった。
「あはは、ほら行こうってば!」
先に歩きかけていたプーレが、笑いながら後ろの2人を手招きした。
エルンはいつものように、パササはまだ不機嫌そうな顔をしてついていく。
しかしパササの機嫌は10分もたたないうちに直り、
どこかわからない世界に居るという状況にもかかわらず、
プーレ達はいつものように歩いていった。




それからどのくらい歩いただろうか。
しかし動物とはいっても子供の足なので、大した距離は動いていないはずだ。
それなのに、パササの髪の紫色が急に色濃くなるところにやってきた。
それに気がついたプーレが、立ち止まってパササに声をかけた。
「あれ、パササの髪の毛、色が濃くなってない?」
「エ〜?あ、ホントだ。」
どうやら本人は気がついていなかったらしい。
プーレに言われてから髪を見て、びっくりしたように目をしばたたかせている。
“あらほんと。変ね……まだ高位種族が多いエリアじゃないのに。”
色が変わった当人だけではなく、サファイアも不思議そうにしている。
確かに普通なら段階的に力が濃くなっていくのだろうから、
急に濃くなるのは変な話だ。子供でもわかる理屈である。
「もしかしたら、近くにすごい闇の力があるのかもねぇ。」
“うーむ、そうとしか思えないな。
どうもあちらの方から近づいてきているようだしな……。”
近づいているというルビーの言葉どおり、
パササの髪の色の鮮やかさは増す一方である。
そして少し経つと闇の力の濃度は頂点に達したらしく、
アメジストのように深く鮮やかな紫色になったところで色の変化は止まった。
と、そこでプーレたちの前に一人の男性が現れる。
「おや、こんなところで何をしている?」
「あれ、おじさん誰?」
突然現れた人影は、この世界に来て始めてみる人の形をした種族。
髪の色は少し落ち着いた色の金髪で、端の方だけが濃いオレンジ色。
そして目は青紫を帯びた銀色をした優男風の外見。
人間の基準で言えば30代前半くらいだろうが、若い娘が黄色い声を上げそうだ。
だが、においはやはりというかなんと言うか、人間のそれではない。
どこかで嗅いだにおいに近いにおいがするのだが。
「おじさん、か。まぁ、君達くらいならそうなるだろう。
私はガルディルヴィス。魔神といえばわかるか?」
『魔神〜?!』
彼の言葉にはプーレたちも六宝珠さえも度肝を抜かし、
耳を突き破りそうな大声で異口同音に叫んだ。
魔神といえば魔界と魔族を統べる魔法の神であり、
外の世界を求めて天界を出ていった邪神の一人。
神としての位、つまり神格で言えば上級神に相当する神の中の神だ。
至高神達同様に世界が生まれる前から存在し、全ての世界に魔力を満たしたとされる。
“いきなり大物のお出ましだな……。”
珍しく、やや気おされたようにルビーがつぶやく。
地界では神話の中だけの存在が、今目の前にいるのだ。
いかに貴重な六宝珠といえども多少は気おされる。
だがプーレ達の反応はそれとは180度違った。
「うっわ〜、はじめて見たぁ〜♪」
「ぼくもはじめて見たー……。」
「ボクも〜☆」
3人そろって、まるで宝箱を見るような輝いた目で魔神を見上げていた。
初めて見た「神様」という存在に、珍しく3人一緒になって興奮している。
その嫌味がない正直な反応が面白いのかほほえましいのか、
魔神は少しだけ口角を上げた。
“しかしあんた、何でこんな端の方をうろついてるんだ?”
「ただの散歩だ。そうしたら、外から来た種族と六宝珠の魔力を感じたからな。
どうやらただの客人ではないと思って、直接様子を見に来たのだ。」
自分が治める世界に妙なことが起こらないか、
外から変なものが入ってこないか見張るのも神としての大事な役割だ。
プーレ達が単独で入り込んだのなら見過ごしただろうが、
六宝珠のように強い力を持つ物を所持しているとなれば話は別らしい。
「魔力って、においみたいにわかるものなの?」
「まぁそうだ。私と私が治めるこの世界の住人は、皆魔力を感じ取ることが出来る。」
魔力はどれも同じだと思う者が種族を問わず多いが、
実は種族、個体ごとに差がある。
秘めている魔力の量が種族や個体で違うのは当然だが、
外見や性格のように魔力にも個性があるという事だ。
「フ〜ン、便利だね。
ところでさー、神様だったらここから帰る方法わかるよネ?」
「ここから帰る……地界に行く方法か?」
どこへ帰るといわなくても、魔神にはわかったらしい。
困った様子は全く見せずに返事を返した。
“ええ、そうですけれど。あなたならご存知のはずでしょう?”
先ほどエメラルドは、闇の力が強い方に行けばいいとプーレたちにアドバイスした。
そこになら上位種族がいて、脱出の糸口が見つかるかもしれないからだ。
だが、ここに神がいるなら話は早い。
「当然だ。この世界に本来居ない種族、
ましてや六宝珠まであるとなれば見過ごせない。
そうだな……私の城に来てもらおう。くわしい話はそこでする。」
「お城ぉ?」
どこにあるのと言いたそうな目で、エルンが魔神を見る。
すると、魔神はふっと微笑した。
「そうだ。では行くぞ……デジョンズ。」
魔神がそう唱えると空間に裂け目が生じ、
彼自身とプーレ達はそこに飲み込まれそこから姿を消した。
向かったのは魔神の城。この世界の中心ともいえる場所である。



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貴重品の管理が間違ってる第2弾。パササ、ルビーを投げる(笑
なお、本物の宝石で真似をすると、
ショックで壊れることがあるそうなので絶対に真似しないで下さい(やらないって
そして今回は神様が登場です。彼は邪神ですが、
この世界の神様は単に昔天界を出て行っただけなので、別に悪さはしません。
意外に子供にも寛大だったり。永く生きているのでちょっとやそっとでは動じません。